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ライフル射撃における照準 (1)


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1988/11
高瀬正典(選手強化委員、当時)



1. はじめに


標的競技には、ダーツ、弓、アーチェリー、ライフル射撃をはじめとしてその他にも種々の競技がある。これらの競技の特徴は、標的中心にどれだけ近く矢または弾を命中させるか、を競うことであり、早く走るとか高く飛ぶといった動のスポーツに対して静のスポーツといえる。これら標的競技の中でも、発射のために筋力を用いることのないライフル射撃は最も静的なスポーツの一つである。


ライフル射撃には、ライフル競技とピストル競技があり、それらはさらに火薬銃(小口径または大口径)によるものと空気銃によるものに区分される。どの種目においても、射手は腕で銃を構え(据銃)、銃身の方向を眼で見て標的に一致させる動作(照準)を行いながら、機を見て引金を引き(撃発)、弾丸を発射させる。射撃には、人間が制御できる部分と銃と弾で決まる部分に加えて、両者が影響し合う部分がある。すなわち、それらは渾然一体となって射撃のためのマン・マシン・システムを構成しているといえる。

標的面上の弾着点は、通常標的中心からなにがしかずれてしまう。この弾着点のずれの原因は、(1)銃と射手からなるシステムの射撃動作に起因する照準誤差と、(2)撃発以後の原因に基づく誤差すなわち弾道誤差の2つに帰することができる。弾道学に関しては古くから研究されてきたが、射撃動作に関する科学的な分析は従来ほとんどなされていなかった。その理由として、ほとんど動きのない静のスポーツであるため、何をどの様に計測すればよいのか分からなかったことに加えて、定量的な測定手段がなかったことがあげられる。本稿では射撃動作、とりわけ照準に関して筆者らの研究室で行ってきた研究の基本的な考え方と測定方法および成果の一端について述べる。


2. 照準線動揺


まず、照準の基本的構造について簡単に述べる。


照準とは、図1にモデル的に示すように、リア・サイト中心Aoとフロント・サイト中心Boを眼で見通してその延長線上に標的黒点中心To(照準すべき点、すなわち照準点)が乗るように銃の方向を調整することである。図1はリング・サイトの場合であるが、ポスト・サイトの場合も同様に考えてよい。点Aoと点Boで定まる直線を照準線、標的面との交点Tを照準位置と呼ぶ。標的面上To-Tが照準誤差であるが、誤差をフロント・サイトから見込む角∠ToBoTで表わすことも多い。


照準動作中の射手がサイトおよび標的をどのように見ているか、概念的にその照準像を描いたのが図2である。照準は、まずぼけて大きく見えるリア・サイトの中心にフロント・サイトを導き、ついで図のようにフロント・サイトと標的黒点の中心を一致させるという順に行われる。


外からみると静そのものに見える射撃動作も射手本人にとってはそうではない。銃がなかなか安定しないで引金を落とせない場合もある。このとき射手は何故引金を落とさなかったのだろうか。それは、銃の動揺によって、図2の視覚的照準像の2つのパターン、すなわちフロント・サイトと標的黒点との相対関係が大きく変動して動揺(以後、照準像の動揺と呼ぶ)が収まらないため、経験的に判断して中止したものと考えられる。すなわち、射手はこの照準像の動揺を撃発するかしないかの判断の目安としていると考えてよい。


照準像は射手の視覚上のものであって、他人が知ることはできない。しかし、この照準像の動揺を正しく記述する信号を得ることができれば、射手の射撃動作を知るうえで好都合である。その信号を得るには照準線の動揺を測定するのがよい。照準線の動揺は、図1の瞳孔中心Pが照準線上にある場合,照準像の動揺を正しく記述すると考えられる。Pが照準線から外れた場合はどうか? この問題については後述するが、結論からいうと瞳がずれたとしてもその影響は小さい。したがって、射撃動作中の照準線動揺を測定することによって、射手の視覚的照準像の動揺をほぼ正しく記述する信号を得ることができる。



図3は、銃にコーチングマシン8)と引金センサ6)を取り付け、照準線動揺と同時に引金の加圧状態を記録し、かつ実射による弾着点を採取することができるよう構成した射撃動作解析システムである。ここで用いたコーチングマシンとは、He-Neレーザ光を自己集束型オプチカル・ファイバを通して銃身に取り付けた投光器によって50m先の標的面上に高輝度の赤い光点を作り出す装置で、照準線とレーザ・ビームを標的面上で一致させることによって照準位置を眼で見えるようにしたものである。コーチングマシンだけでは記録ができないので、TVカメラを用いた照準解析装置3)で照準線動揺を上下方向と左右方向の信号として取り出し、ペンレコーダに引金荷重信号とともに記録する。



図3のシステムを用い、3人の射手について得た数年前の記録例を図4(a),(b),(c)に示す。射手は元世界チャンピオン、日本およびアメリカの学生連盟代表クラスの学生各1名である。引金荷重曲線に矢印で示したところが撃発時機で、その瞬間の上下方向および左右方向の照準線動揺曲線の値から、引金を落としたときの照準位置を求めることができる。引金の引き方は3人3様であるが、照準線動揺の大きさはチャンピオンの方が小さいことは明白である。いかにして照準線動揺を小さくするかが射手のトレーニング目標の第一といえよう。


コーチングマシンを用いるシステムは、射場におげる実射時の弾着点と照準位置の関係を調べるのに適しているが、トレーニング等に利用するには射場で実射する必要はない。われわれは手軽に実験室でも使用できるシステムを構築し、種々の射撃動作解析に使用している。構成例を図5に示す。このシステムは標的距離5〜12mで使用する。照準線動揺計測銃5)は小口径フリーライフル用であるが、他の銃についても半導体レーザ投光器を取り付けて測定可能である。測定例を図6に示す。測定精度は、50m標的面上に換算して、±1.2mmであった。この図は、オリンピック代表クラスの射手が一連の射撃動作の中で引金を落とした試行(a)と落とさなかった試行(b)の連続した2回の照準線動揺を表わしている。記録のスケールが異なるので図4と図6の直接の比較はできないが、図4(a)と図6(a)はほぼ同程度の



揺れである。図6について、(b)の動揺が(a)のそれよりかなり大きいことが分かる。引金を落とすかまたは落とさないかの判断の目安がどの程度かを連続した記録について見ると、50m先の標的面上の照準位置に換算して撃発前の約2秒間の動揺の最大揺れ幅(山から谷まで)でおよそ25〜30mmの辺りにあったと推定される。この値はもちろん射手や条件で異なりかつばらつくことが予想される。今後さらに正確な検討をする必要がある項目である。


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