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競技における自信


Edward Etzel  川村知子 訳


この記事を読んでいる方は、選手やコーチなど様々な立場にいるでしょう。選手であるとしても、仲間たちとの活動を楽しむために射撃をしているかもしれませんし、競技者としてトレーニングや試合に参加しているレベルにあるのかもしれません。もしあなたがコーチとして競技を生活の中心においている選手の指導をする人であれば、選手たちを個人のゴール(例えば選手権を勝ち取り、ナショナルチームに入るといった目標)に到達させなければならないでしょう。この記事を読んでいる人が置かれている状況は、実にさまざまだと思います。しかしあなたがどんな立場にあるとしても、あなた自身、あるいはあなたが関わっている選手がどれほど射撃を楽しみ、またどれほど目標に近づけるか、それを決めるのは当人が持っている自信です。


自信とは何か


ところで、自信とはなんでしょうか?それは人によって異なっています。なぜなら、私たちはすべて違う人だからです。何に対して自信を持つか、それを決めるのは、その人の持つ興味や目標です。そして自分がどんな人であり何ができるか、という感覚も自信の強さを左右します。また自信には、経験や周囲の人たちから受ける影響という、人それぞれに異なり、かつ常に変化し続けている要素が深く関わるのです。


スポーツをする立場からすると、自信というのは、「その人が自分について、競技に必要な行動を、どの程度適切に、続けてできると考えているか」、ということになります。言い換えれば自分に対する信頼です。「自信がある」ということはすなわち、自分がこれからすることに対して、知識と技術をもっている、うまく成し遂げられる、達成することを望んでいる、と信じていると言えます。


自信というものは、ある人は常に持っていて、ある人は持っていないというものではありません。誰も、完全に自信に満ちているわけでなく、逆に自信のまったく無い人もいません。人は、自分が十分に練習し、経験している状況に向かうときに自信を感じます。例えば、練習の時や仲間内の小さな試合では、多くの射手は自信を持って臨むでしょう。反対に、あまり経験のない試合や普段よりレベルの高い競技会では、自信を持てないことがよくあると思います。しかしハイレベルな試合でも、何度も経験すれば成功するチャンスも増え、その成功によって自信を高めることができます。つまり、自信とは経験と学習によって作られるものなのです。


また、自信は本人の期待にも影響されます。射手の予期していることが、実際の技術や能力にあったものであれば、その射手は適度な自信を持った状態であると言えます。しかし、時として予期することが現実的でなかったり、実際の技術や能力から離れていたりすることがあります。期待があまりに高いとき、それがいわゆる「自信過剰」です。逆に、実際の能力よりも低いレベルの結果を予想しているとき、それは「自信喪失」しているといえます。


この二つの状態は、どちらも好ましくありません。いずれの場合においても、失敗する見込みは高いでしょう。自信過剰の選手は、実際にできることよりも高いレベルのことを望み、無理なところに目標をおいてしまいます。そんな場合はいい結果は得られません。また実力通りの結果が出たとしても、不満を感じることになります。対照的に、自信のない選手では実際に自分ができることをできると信じていないために、実際の能力よりも低い結果となってしまいがちです。たとえ良い結果が得られても、まぐれと考えてしまう傾向にあります。この2つのタイプの選手には、目標や予想をより現実のレベルにあったものへと変えることが重要となります。そのための方法は数多くあります。


適度に自信を持つために必要なことは、第一に、競技に参加し続けることです。いろいろな方法で練習し、試合の経験を積むことは、選手にとって自分の能力や目標を正しく判断するために欠かせません。自信をつけるためには、これから行うことについてただ願ったりイメージしたりするだけでなく、こうした実践が不可欠です。そして第二に必要なことは、失敗をおそれない心構えをすることです。完全な射手というのは存在しません。常に試合で勝ち続ける選手でさえ、そのつどある程度のミスはしているものです。他の人も自分も完璧ではないということを受け入れられれば、極端な自信過剰も自信喪失も起こりません。時として失敗や伸び悩みがあるのはしかたないと思ってください。そうしたときでも、むやみに自分を批判しないことが大切です。ただ単に自分を悪く思うのでは、その後の結果に悪影響がでるだけではなく、射撃以外の部分でも自分の価値に疑問を抱くことになりかねません。


評価や励ましなどを、自分に向けて(心の中で)言うことをセルフ・トークと言います。このセルフ・トークは動機や自信、そしてこれから自分がすることに対し、大きな影響を持っています。特に調節の難しい動作について、自分に向けて言ったことが実際に生じることがあります。例えば、体が止まる、と思えば体の動きは小さく、ゆっくりになります。体が動く、と思ってしまったときに、実際に体がそう働くことがあるのです。


もし、競技中に悪いショットをしてしまった時、自分に向かって「ばか!」とか「これで負けだ」などと非難をしてしまうと、次の射撃にも悪い影響が出て来るのです。このようなセルフ・トークをすることは、自信を失ったり、その試合をあきらめてしまう原因となります。逆に、「今のは仕方がない。落ち着いていこう。」とか「次からいいショットが続くだろう。」といったように、肯定的なセルフ・トークをすることは、いい結果をもたらし、自信を持ち続けることにもつながります。競技や練習が終わったあとも、「今日は何発かいいのがあった。次はもっとうまくいくだろう。」などと、結果が良くなくても、いい部分を積極的に評価することが有効です。


試合や練習の際に、自分に対してどんなことを思っているか気を付けてみてください。そしてできるだけ、自分を励ます言葉を増やし、マイナスの言葉をなくすことを心がけてください。そうすれば、試合に対してずっと前向きで、自信のある姿勢で臨むことができるでしょう。コーチとして他の選手を見るときには、選手ひとりひとりに、本人への評価をノートに書いてもらえば、それを材料としてよりよいセルフ・トークを導くことができます。


自信をうまく持つために、簡単な方法が二つあります。一つは目標を適切なレベルに設定することです。目標が高すぎたり低すぎたりすれば、自信は揺らぎます。点数で決める場合、普段の平均点より少し上を目指すくらいが妥当です。そうすれば、その点数をクリアすることは現実的であり、クリアしたときにもまぐれと思わずに、実力であると信じることができます。点数以外の何か具体的なことを目標にすることもできます。そして、目標をクリアする度に少しずつ高く設定し直すことで、挑戦する気持ちは持続します。第二の方法は、ストレスを減らすことです。このためにはリラクセーションや腹式呼吸、自律訓練法が有効です。これらは多くのトップアスリートにも使われています。最初は緊張したり、つらいと感じられる状況でも、このような技法により気持ちを落ち着けて乗り切ることで、自信をもって競技に望むことができます。


スランプとバーンアウトその予防と対処


良い成績を上げるために、多くの選手は何かを犠牲にしています。普段の練習は疲れるものであり、多くの時間を必要とします。さらに試合にはストレスがつきものです。遠征時の移動による負担は大きく、体調を整えることが難しい場合もあります。また、生活の他の部分によるストレス、例えば仕事や家族のことなどの問題も、競技に影響を与えます。こうしたストレスが競技成績に与える影響は、選手にとってもコーチにとっても、面倒な問題です。選手の実力通りの結果が出ず、その理由がわからない場合には選手もコーチも困惑し、不満や怒りを感じるはずです。こんな時、選手にはいったい何が起きているのでしょうか?そしてコーチにはこのような時に、また、このようにならないために何ができるでしょうか?


まず大事なことは、コーチが個々の選手やチームにおきた成績不振を認めることです。こうした問題から逃げ、改善できることもしないために無駄な時間を費やしてしまうことはよくあります。実際の問題を把握せずに、選手の努力や決断力が不足していると決めつけてはいけません。


さて、どのように問題に対処すれば良いのでしょうか?競技選手に見られる、長期にわたるの強いストレスによっておこる結果には、おもに二つのパターンがあります。その一つがスランプであり、もう一つがバーンアウトと呼ばれるものです。


スランプ


ふつうわたしたちは、これまでよい成績を出している選手が、長期間にわたって成績を低下させているときに、その選手がスランプに陥っていると言います。ある選手がスランプにあるとき、技術や道具には問題がない、ということはよくあります。このために選手は成績がでない理由は何なのか、と悩むことになるのです。スランプにある選手は、日々のくりかえしを退屈だと感じ、疲れた気分になりがちです。そして、それまでの平均的な成績を出している時期にくらべて、やる気をなくしているように見えます。


スランプはなぜ起こるのでしょうか?その理由はたくさんあります。Taylor(1991)はスランプの原因となることを四つあげています。それは、(1)身体的理由(病気、けが、疲労、過度のトレーニング)、(2)技術的な変更、(3)道具の変更、(4)精神的理由(不安、関心の欠如、自信喪失、コーチや仲間との葛藤、生活の他の部分での悩みなど)、の四種類です。競技生活の中で、こうしたことは避けられないものですが、理由を見つけだすのも難しいことです。しかしスランプは、あまり長く続かないということも事実です。あまり気にせずにいれば、自然に直ってしまいます。そうでなくても、理由がわかったときには、わりと簡単に立ち直ることができるものです。しかし、実際にいちばん望ましいのは、スランプをあらかじめ予防することです。この予防法については後の項でご紹介します。


バーンアウト


バーンアウト(日本語ではよく「燃え尽き」とも言われます)はふつう、長期間のストレスにさらされた後に起こります。これは大きな試合の後など、しばらくの間やる気を失ってしまう現象です。バーンアウトの起こる理由にはいくつかあります。それには、(1)とても厳しい、難しい状態で、良い変化が望めない、(2)技術、人脈などのサポートが不十分である、(3)今の状況が自分ではどうにもできない、望みがないと感じる、(4)そのままでは身体的、精神的に、ストレスに耐えられなくなる、ということがあげられています。


選手がバーンアウトを起こすときは、過剰な要求をされている状態にあるのが普通ですが、逆に自分の能力よりもはるかに低い要求をされ続けている時にも生じることがあります。こうしたときに、選手は競技に関したことに興味を持たなくなったり、けがや病気をおこしやすくなったりします。他にも、選手同士やコーチあるいは他のひと(家族や、職場の仲間)との関係がうまくいかなくなるといったことがみられます。


対処と予防の方法


スランプとバーンアウトを避けるためにできることは何でしょうか。またそうなってしまったときにはどうすれば良いのでしょうか。最も理想的なことは、予防をすることです。対策を立てておくことでこのような事態は避けられ、また起こってしまった場合でも、あまりひどくならずに済ませることができます。この予防のための方法は、スランプとバーンアウトから立ち直るためにも使うことができます。


予防法は数多く作られています。そのほとんどが日頃の練習に関してできることです。以下に4つの方法を挙げます。


(1) 練習時問の改善
コーチが選手個人にあわせて、練習期間の長さや回数を調節することは重要です。「練習量は多いほどよい」という考えは誤りです。ある程度の技術を身につけた人にとって、初心者の時のような高頻度の練習を続けることは時間の無駄であることがわかっています。上達につれて練習時間を短くする、あるいは回数を減らすのが、スランプとバーンアウトを避けるために有効です。競技のシーズンそのものを短くするのも良い方法です。選手にとって、一年中練習し続ける必要はありません。定期的なオフをもうけて、少し競技から離れることによって、選手たちのやる気と関心はうまく保たれ、実力を出しやすい状態にいられます。また、出場する試合の数を制限することも重要です。どの試合に出るか絞ることで、一つ一つの試合が意味の大きいものになり、集中して臨むことができるのです。


(2) 練習法の改善
練習の仕方をいろいろと工夫することも有効です。同じ内容の練習を続けると、当然飽きが来ます。練習の中にゲーム的なことを取り入れるのは、楽しみと緊張感を持つことができる優れた方法です。また、一回の練習の中に一般的な技術のトレーニングと、リラクセーションやイメージ法などのメンタルトレーニングを組み合わせることは、練習に変化をつけるという意味でも勧められます。


(3) 選手の意見をとりいれる
コーチが練習メニューを決める時に、選手たちも加わることには、選手自身の精神的な不調を防ぐ効果があります。さらに、自分で物事を決めてゆくことは、チームに対する責任を持つことにもつながります。加えて、自分の意志で競技をしているという実感を持つこともできます。


(4) 道具の調整
競技に使う道具をベストの状態に調えておくことも重要です。そうすれば、技術的な問題による成績不振も、不意のミスも防ぐことができます。道具の調整ミス、たとえばサイトの調子が悪いなどといったことは、直接点数に響き、スランプの原因にもなりかねません。ただし、技術的要素の大きな変更は、うまくいかない危険性が伴うので、シーズン中に行うのは避けたほうが良いでしょう。


以上、問題に対する予防法をあげましたが、結局コーチができる最良のことは、選手たちの話を日頃からよく聞くことです。普段の練習や試合の時に、どんなことを考えたり感じたりしているかを知ることで、チームの状態を把握することができるのです。あなた自身が選手であっても、自分に対して客観的な観察、評価をするようにしてください。それが、スランプやバーンアウトといった不振を防ぐ最も良い方法なのです。


(Dr. Edward Etzel, Self-Confidence, UIT-Journal 5/92, 6/92, 1/93より )