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強い射手になるための食事



強い射手になるための食事 5/5
第5回 疲労回復のための食事


管理栄養士  深川 史麻
(明治製菓 ザバス スポーツ&ニュートリション・ラボ、選手強化委員)


射撃のトレーニングを含めて、スポーツなどでカラダを動かすと、さわやかな疲労を感じることができるでしょう。ところが、嫌いな仕事(勉強)を強制されると、運動量が少なくても、疲労感やけん怠感を残してしまいます。このように、「疲労」といっても、いろいろな種類があります。その対処の仕方もそれぞれですが、今回はトレーニングなどでハードにからだを動かした時の疲労を、取り除く方法を考えてみましょう。


1. 疲労とは


強くなるため、上達するために空手のトレーニングをくり返し行うわけですが、効果のあるトレーニングにするためには、ある程度の負荷をかける必要があります。そのため、常に疲労がつきまといます。ただし、疲労というカラダが発信するメッセージを無視して、トレーニングを続けていると、疲労を回復することができません。射撃が上達するどころか、食欲不振や不眠などに陥ったり、ケガをしてしまうことさえあります。


さて、「疲労」と一口にいっても、そのメカニズムはとても複雑です。疲労物質がたまってしまうことで、筋肉を動かせなくなるという“疲労物質蓄積説”、運動によりエネルギー源を使いきってしまった“エネルギー切れ説”、体の調子を一定に保つ能力(ホメオスタシス)が低下した“ホメオスタシス失調説”など、いろいろな要素が組み合わさって起こるようです。いくつかある疲労の原因のうち、すぐにでも対処できるものについて、考えてみましょう。


2. すぐに補給1エネルギー


ガソリンの入っていない車は動けませんね。人間も同じで、エネルギー不足になってしまったら動けないのです。そのため、だるい、疲れたといった「疲労感」が強く出てくるわけです。そこで、とにかくエネルギーを補給するのが、疲労回復の第一のポイントです。


(1) いつとれば良いのか?

トレーニングが終わった後、何か食べていますか?筋肉を動かすためにはエネルギーが必要ですが、その使ってしまったエネルギーを回復させると、疲労感を感じにくいようです。実は、トレーニングが終わってから2時間以内に補給すると、筋肉の中のエネルギー源、つまりグリコーゲンがより多く作られ、回復することがわかっています(図1)。



白い棒グラフは、運動後すぐに糖質の入ったドリンクをとり、2時間後はエネルギーにならない人工甘味料のドリンクを補給したグループです。黒い棒グラフは運動直後は人工甘味料のドリンク、2時問後に糖質のドリンクをとったグループです。白い棒グラフのグループの筋肉のグリコーゲンは、黒い棒グラフのグループに比べて倍以上合成されています。トレーニング後すぐに栄養補給することで、筋肉の中ヘグリコーゲンが戻りやすいということなのです。運動後はできるだけ、速やかにエネルギーをとって、使ってしまった筋肉中のグリコーゲンを、すばやく戻しましょう。翌日の疲労感が変わってきます。


(2) 何をとれば良いのか

一番吸収・利用が良いものは、デキストリンと呼ばれる糖質です。砂糖(ショ糖)より、少しだけ分子量が大きい糖質です。ゴハンに含まれるでんぷんと、砂糖などの中間の物質と言えるでしょう。このデキストリンは、エネルギーゼリーやエネルギードリンクとして、市販されています。


なぜ、デキストリンが良いのでしょうか。少し難しい話になりますが、ドリンクなどの液体の吸収スピードと液体の浸透圧は深い関係があります。液体を早く吸収させるには、ハイポトニック(低張:体液よりも浸透圧が低い)であることが重要です。そのため、疲労回復のためにエネルギー=糖質を確保したい場合、糖濃度が高く、しかも浸透圧が低いドリンクが良い、ということになります。さて、液体の浸透圧は分子の数に比例するので、ブドウ糖IO個はIO分子となり、ブドウ糖がIO個繋がったデキストリンは1分子となります。つまり、同じだけの糖分を補給する場合、デキストリンなら分子の数が少なくて済むので、浸透圧を低く保つ事ができるわけです。


では、デキストリンを用意できない時はどうすれば良いのでしょうか?スポーツ選手にありがちな、炭酸飲料は分子量が小さい糖質を多く含むので、浸透圧が高くなり、吸収が遅くなってしまいます。また菓子パンでは、脂質が多すぎたり、ビタミンなどの必要な栄養がまったく期待できないので、おすすめできません。こんな時のおすすめは、果汁100%のオレンジやグレープフルーツのジュースです。これなら、ハードな練習のあとでも、固形物と違ってのどを通りやすいでしょう。また食べることができるようなら、バナナも良いでしょう。


(3) どれくらいとれば良いのか

ハードなトレーニングをこなして、エネルギーを使い切ってしまった時、体重lkg当たり0.7gの糖質が補給できれば理想的といわれています。体重が70kgなら約50gとなります。オレンジジュース200mlには20gの糖質が含まれますし、バナナ1本でも約20gの糖質が確保できますので、トレーニング後にオレンジジュースとバナナ1本を組み合わせれば、万全ですね。


ただし、トレーニングの内容や量によって補給すべき量が変わってきます。また、食事が食べ切れなくなってしまっては逆効果ですので、食べる量はおなかと相談しましょう。


3. ビタミンは必需品


積極的に疲労回復をしたい時、特に効果的な栄養素がビタミンB1とビタミンCです。エネルギー源である糖質が、エネルギーに変わるためには、ビタミンB1が必要なので、このビタミンがないと、糖質を食べても、エネルギーを作り出せないのです。不足すると食欲不振になるだけでなく、疲れやすくなってしまうので、疲労回復のためには、欠かせません。また、ストレスに対抗するためにビタミンCも補給しておきましょう。激しい練習は、当然、カラダヘのストレスになります。ストレスを受けた時、それに対抗するために副腎皮質ホルモンを体内で作ります。このホルモンが作られる時に、ビタミンCが必要になるのです。ビタミンB1やビタミンCを多く含んでいる食品(図2)を、積極的に食事の中に組み込みましょう。


4. 休養と栄養が二本の柱


疲労回復に必要なことは栄養だけではありません。休養も重要です。休養している間に、トレーニングで壊されたカラダは、補給した栄養素を使って、修復し疲労を取り除くのです。どちらが欠けても、効果は不完全になってしまいます。休養面では、特に睡眠のとり方が重要です。"たっぷり"より"ぐっすり"、つまり量より質が大切です。


また、40℃程度のぬるめのお風呂に、ゆったり入ってみても良いでしょう。入浴はリラックス効果があるだけでなく、血液を循環させるので、筋肉の疲労を取り除くのにも効果的です。


トレーニングをつみ、疲労し、栄養や休息をとる。そして、疲労が回復したらトレーニングを行う。このくり返しによって、カラダは作られ、よりハードなトレーニングもこなせるように、なっていきます。積極的なトレーニングを行っているのなら、疲労しないということは、ほとんどないでしょう。上手に疲労し、栄養や休養でその日の疲れをすばやく回復。さあ、明日の練習もがんばりましょう!